2015年ストレスチェックは義務化されたものの、企業の抱えるメンタルヘルスへの問題は増える一方の昨今。

明治創業、従業員数は3,942名(2021年3月31日、単体)、社会インフラ事業、産業分野への製品・システムの供給と幅広く事業を展開する一大企業である明電舎。1950年代には相談室を設置していることから、メンタルヘルスに力を入れている企業のパイオニアと思しき企業です。今回は、そのような明電舎の軸となる人事企画部 労政課の酒井さんにお話を伺いました。

 

産業カウンセラーと明電舎の繋がり

エントランスにて酒井さん

社内でメンタルヘルスが問題になっていた頃、事業場内にEAP企業の相談室が設置され、派遣されていた方が産業カウンセラーでした。社内でもかなり評判のいい方で委託当初から予約が埋まっていたように記憶しています。私自身も相談室を利用したことで産業カウンセラーを知りそのことがきっかけで資格を取りました。資格取得後は会員研修部に所属し、研修企画の経験を積む中で、社内セミナーの開催を提案できるようになりました。また千葉にある聖徳大学通信教育部心理学科に入学し、明電舎で仕事をする傍ら、3年かけて卒業することができました。

 私が勤めている明電舎の名前は、協会の養成講座テキストに社名が掲載されているので、どこかで見たことがあると思う方も多いのではないでしょうか。産業カウンセリングと明電舎の繋がりは日本に産業カウンセリングが導入された時期に始まります。1950年代に日本電信電話公社(現NTT)に続いて、相談室を開設した会社として紹介されています。(※1)この頃よりメンタルヘルスへの援助が職場の生産性に通じると考え、相談室が設置され職場の明朗化が進んでいきました。これは後にお話しする健康経営(※2)の原点に通じると考えています。

 

健康経営とは?

健康経営戦略マップ

2019年4月に明電グループ健康経営宣言を策定しました。健康経営の5本柱の中には、『メンタルヘルス推進体制の強化とメンタルヘルス疾患を生み出さない職場づくりの推進』も含まれています。こころの健康作りをはじめとした5つの健康課題への対策に注力した結果、経済産業省および東京証券取引所が選定する『健康経営銘柄』に2021年、22年と2か年連続で選ばれました。また、経済産業省が優良な健康経営を実践している企業を顕彰する制度『健康経営優良法人ホワイト500』にも2度の認定を受けました。社会のサステナビリティ・パートナーを目指すべく、従業員のウェルビーイング(健康で幸せ)を図り、1人1人の健康を組織で支える体制や仕組みを整えており、これからも継続していきます。

 

ストレスチェックの活用法

職場のストレス判定図

 ストレスチェックについては、集団分析から職場の傾向や対策を現場へフィードバックしています。集団分析では、仕事量とそのコントロールの程度を職場のストレス要因として、上司・同僚からの支援がどの程度あるかのストレスの緩衝要因として数値化しています。職場ごとにそれぞれ要因の組合せで職場タイプに分類し、何を優先的に対策すればよいのか、目安をつけられるようにしました。

 健康経営のような広がりをきっかけに、メンタルヘルス対策を、企業の業績に結びつくよう、戦略的に展開するといったことは、他のカウンセラーではなかなか簡単にはいかない部分で、そこは産業カウンセラーとしての役割であり、差別化出来るところではないかと考えています。

 
相談室の利用状況、復職支援など

「け・ち・な・の・み・や」サイン

相談室の利用手順については、従業員が自らEAPに予約を入れるか、健康管理室から取り次ぐケースなどもあります。相談件数については昨今のコロナの影響もあってか、増加傾向にあると感じています。

 明電舎の産業医の一人に鈴木安名先生がいます。鈴木先生には、協会の会員研修の講師をしていただいたこともあります。先生の提唱しているメンタル不調者に気付くポイントの語呂合わせ「ケチな飲み屋」サイン(※3)(け:欠勤 ち:遅刻・早退 な:泣き言を言う の:能率の低下 み:ミス や:辞めたいと言い出す)が見られた場合は、様子を気に掛け声かけを行いましょうと管理職に伝えています。

 また、社内にあるデジタルサイネージ(電子看板)に、メンタルヘルス関連の情報を流すことでメンタルヘルスに対する啓蒙をする事で、気軽に相談できるよう風通しの良い職場づくりを目指しています。

 

今後の抱負

富士山も望めます明電舎沼津事業所

 前述の産業カウンセリング読本の中で紹介されている事例は、相談の内容やパワハラやセクハラ、家庭問題など現代と変わらない問題が挙げられていました。時代や環境は変わりますが、昔も今も同じ人間で変わらないところも当然あります。企業側に傾き過ぎず、人間的なところもしっかりと残して、環境を整えていくと同時に橋渡し役になれるような産業カウンセラーを模索していこうと思っています。

※1 竹井英夫編(1961)産業カウンセリング読本 (社団法人 日本産業訓練協会)

※2 健康経営は、NOP法人健康経営研究会の登録商標です。

※3 鈴木安名著(2006)人事・総務担当者のためのメンタルヘルス読本(労働科学研究所)