社会医療法人 志仁会 指定訪問介護事業所
ラ・サンテふよう 所長 小林 聖子さん
「介護施設はメンタルヘルス対策が遅れている」そう語るのは、訪問介護事業所の所長を務める傍ら、静岡県ホームヘルパー連絡協議会会長の顔も持つ小林聖子さん。利用者はもちろん、そのご家族、そして介護職員までもがラ・サンテふようと関われて良かったと思って貰えるよう尽力されています。
そこには産業カウンセラーの存在も大きく関わっているようなので、お話を伺ってきました。
■産業カウンセラー養成講座を受講したきっかけ
静岡こころのサポートセンターでの勉強会に参加した時に産業カウンセラーの梶山さんと出会いました。グループセッションの中で当時の悩みを打ち明けました。
その頃、退職者がいつも決まった部署から出ており、それも利用者からの評判も良く、年齢も若いとてもいい子が辞めていくのです。調査したところ、私の知らないところで、上司からのパワハラが原因であったことが後に分かり、この出来事をきっかけに社会復帰が出来なくなったらと考えると本当に気の毒で残念で・・・第二・第三の同じような子を作るまいとその上司には辞めて頂いたのですが、離職のペースは改善されませんでした。介護施設には、ヘルパー、看護師、リハビリスタッフ、事務員、経営・運営者と様々な役割の人がいます。おそらく、皆がそれぞれ忙しく、お互い干渉し合わないような風土が離職を止められない原因なのかもしれません。
一通り話をすると、「あなたの悩みは産業カウンセラーの養成講座を受講したら解消すると思うよ」との言葉を頂き、受講を決心しました。受講を終え自ら資格を取得し、職場環境の改善のために産業カウンセラーの必要性を強く感じました。
■産業カウンセラーを内部に入れる
職場環境の改善を目指す活動でありながら、職員間の環境改善に向けた取り組みに反対する声が当初はありました。そんな時に産業カウンセラーの梶山さんは、「あえて、反対する人もメンバーに加えてみよう」という私にとっては目から鱗のような提案をして下さりました。委員会の名称も労働安全衛生委員会という堅苦しいものから、Work²委員会(働くとワクワクをかけて)に変えたり、一般職員で構成したWork²委員会を構成し現場の声を出しながら徐々にワンチームになっていったように思います。その結果、離職のペースは減り、退職しても復職する方もあり、静岡県の出す32項目の条件をクリアした事業所のみに与えられる「働きやすい介護職場認証」の認定も受けました。外部の産業カウンセラーが施設に入る前例がなかったので、労働基準監督署の方からは非常に良い取り組みだと絶賛されました。
介護業界は高齢化による人手不足や離職率の高さから採用コストが非常にかかります。中長期的に見て、カウンセリングや研修に投資し、職員の心を豊かにすることで離職率を下げる方が効率的だと思います。
■ターミナル(終末期)ケアについて
ターミナル委員会を設置していて、絶対に一人で抱え込まないようチームで関わるようにしています。経験の浅いスタッフは、食事を摂ることが難しい状態の方に対しても、何とか食事を摂って貰おうと頑張ることもありますが、終末期の方においては肺炎等のリスクもあるので、見守るという判断も重要になります。先輩職員が気付いて声を掛け、振り返りをし、勉強し合う体制を整えています。
終末期というのは決して怖いものではなく、みんなが支え合い、繋がることによって温かなものになります。ご家族から感謝をされる機会もありますし、携わる方たちの多くは、ターミナルケアが一番やりがいを感じるという声を耳にします。
■三島市内8つの事業所で連携協定を結ぶ
URL: https://www3.nhk.or.jp/lnews/shizuoka/20240216/3030023033.html
他施設との緊急時の連携協定は千葉県の流山市をモデルケースにした背景があります。ただでさえ人手不足なところ、コロナ禍で訪問できないケースが散見されていたので、施設の垣根を越えて、市町村とタッグを組む必要がありました。他の施設に回せるほど人員の余裕はないと断られてしまうことや、管轄が市町村ごとに区切られてしまうので難しい面もまだありますが、職員の負担の軽減や利用者の安全を守るためにも、輪が広がることを期待します。
■これからの課題
※出典:パーソル総合研究所
カスタマーハラスメントに関する定量調査より
パーソル総合研究所のカスタマーハラスメントに関する定量調査の結果によると、最もカスタマーハラスメントを受けやすい職業が介護士・ヘルパーとなっています。理不尽なことが起きたり、思い通りにならないことがあったスタッフを感情的に指導しても聞き入れて貰えないでしょう。
Googleの人材・組織開発責任者の著書『心理的安全性』は私にとって非常に良いバイブルとなっています。指導するときがターニングポイントだと捉え、管理者一同学んでいく必要があると思っています。
■会員に向けてのメッセージ
介護業界に限らず、今後一事業所に1人産業カウンセラーを置いて、働きやすい職場が増え、カウンセリングを身近なものにして欲しいです。そのためには目先の利益に囚われずに、社会貢献活動が必要です。産業カウンセラー協会が先頭に立って、各会員が草の根活動を行い、みんなでカウンセリングを身近なものにしていきましょう!