人生100年時代に「産業カウンセラー」を学ぶ

2025年日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.13歳(厚生労働省)に達したそうです。人生後半をどう生きるかは、私たちにとって大きな関心事の一つです。

今回、年齢を重ねる中で学びを通して自らの可能性を広げている、三重の二人にスポットを当てました。一人は、養成講座受講中の中俊治さん。もう一人は、わが三重広報部員の黒田和博さん。産業カウンセラーの学びをどのように活かしていくのか、それぞれの立場から語っていただきました。人生100年時代を生き抜くヒントにしていただけたらと思います。

「相手の思いに寄り添い、自分自身も受け止めてもらえる存在でありたい」

中 俊治さん

中俊治(なか としはる)さんは、現在70代半ばです。65歳で仕事を退いた後、家のメンテナンスや日々の暮らしを楽しみながらも、「今の自分は社会の役に立てているのか」という思いが心の奥に残っていたといいます。

中さんがカウンセリングに関心を持った原点は、小学校教員をしていた30代半ばに遡ります。当時、全国で校内暴力が社会問題となり新聞を賑わせていました。「子どもたちとどう接していったらいいのか。子どもの思いを見つめていきたい」。そう思ったことが、心理やカウンセリングへの興味の源流でした。知人の勧めで県内のカウンセリングスクールに通い、さまざまな理論やグループエンカウンターなどを4年ほど学びました。しかし仕事との両立もあり、中途半端な思いが残ったままスクールを離れることになりました。

定年退職後に放送大学で心理学を学び直したものの、実技演習ができなかったために物足りなさを感じていました。そんな中で出会ったのが、産業カウンセラー協会の養成講座でした。「実技が充実していると知って、飛びつきました。人と真摯に向き合うコミュニケーションこそ、自分が本当に学びたかったことだと感じたからです」。

講座を通して、中さんは大きな変化を実感しました。家族との会話では、相手が話しやすい雰囲気をつくれるようになり、以前よりたくさんしゃべってくれるようになったといいます。「以前はつい自分の意見を言いたくなったけれど、今は相手の気持ちを受け止める姿勢が少しずつできるようになりました」。また、自分の気持ちを丁寧に伝えることの大切さと同時にその難しさにも気づきました。「もともと自己開示が苦手な自分だったので、養成講座でのアサーションの体験は重要でした」。

さらに、同じような悩みを抱える仲間と出会えたことも大きかったようです。「養成講座や協会主催の研修講座に参加したことでさまざまな心のありように気づき、また産業組織・働く人々の環境についての視野が大きく広がりました」。また、学びの過程で、自分の癖や思考の傾向に気づくなど、自己理解も深まったそうです。

資格取得後には、傾聴ボランティアとして高齢者の話を聴く活動に挑戦したいと考えています。「人は誰でも、年齢に関係なく挑戦できる。自分の存在価値を感じられること、人の役に立てることが生きがいにつながると思うんです」。人はそれぞれ置かれた境遇の中で、挑戦ができる。たとえ自分が寝たきりになったとしても、自分なりの挑戦があるはず、希望があるはず──そんな視点を大切にしたいと語ります。

最後に読者へのメッセージを尋ねました。「人はそれぞれの境遇で一生懸命生きています。その思いに寄り添える人でありたいし、自分自身も誰かに受け止めてもらえる存在でありたい。これからも挑戦する気持ちは大切にしたいですね」。

中さんの柔らかなまなざしと穏やかな口調の奥に、静かな情熱が感じられました。取材を終えたあと、同じ時代を生きる先輩から勇気を分けてもらったような心地になりました。

※中さんには、資格試験を終えたばかりのタイミングで、インタビューを引き受けていただき、本当にありがとうございました。

 

「人は役割を持つことで元気になる」

黒田 和博さん

私は年齢を重ね70歳を越える年齢になります。かつて70歳といえば「ゆっくり余生を過ごす年齢」という印象がありましたが、どうやら今の時代、そのイメージは少し変わってきているようです。総務省の統計によれば、現在65歳以上の就業率はおよそ4人に1人。特に65歳から69歳では、ほぼ2人に1人が何らかの形で働いているそうです。街を見渡せば、元気に働く同世代の姿に出会うのも納得できます。

62歳のときに産業カウンセラーを長年やられる方に出会い、「産業カウンセラーはモノの見方が変わり、人生観も変わるよ」との言葉を鵜呑み?にして資格取得にチャレンジしました。同時期に大学院でも研究を行っており、「この年齢から勉強ですか」と驚かれることもありましたが、むしろ人生の後半だからこそ、新しい挑戦をしてみたいと思いました。その後、社会福祉協議会で生活困窮者の就労支援に2年間携わりました。

相談に来られる方の多くは、生活そのものに自信を失いかけていました。話をゆっくり聴き、次の一歩を一緒に考える中で、表情が少しずつ明るく変わっていく瞬間があります。その姿を見るたびに、「人は役割を持つことで元気になるのだ」と実感しました。実はそれは、支援する側の私自身にも当てはまっていたのだと思います。

現在ある自治体において生活困窮の方のキャリアカウンセリングの仕事に就いていますが、福祉の専門性を高めたいという思いから、4年前に社会福祉士の資格も取得しました。1時間あまりの通勤時間を使っての勉強でしたが、若い頃のように記憶力は頼りにならず、テキストを開いたまま眠ってしまう日々でした。ただ、「まだ成長できる」と感じられる時間は、何よりの刺激でした。

人生100年時代と言われる現在、定年は人生の区切りではなく、一つの通過点になりつつあります。働く理由も、もちろん収入源のためが大きなウエイトを占めていますが、それだけではありません。誰かと関わり、社会の中に自分の居場所があると感じられること。それが日々の張り合いとなり、生きがいにつながっていくと思います。

最近は、「無理をせず、できる範囲で社会とつながる」ことを大切にしています。若さで疾走する時期があるなら、年齢を重ねて経験でゆっくり歩く時期があるのだと思います。

これまで得た資格や経験を活かしながら、人と向き合い、小さくても社会の役に立てる時間を重ねていきたい。そんな穏やかな目標を胸に、もう少し自分なりのペースで歩んでいきたいと考えています。