今回は三重地区を支える人を通して、三重事務所を紹介します。三重事務所は、平成7年に開設されました。長年三重事務所の運営にかかわり、現在養成講座の実技指導者あるいは講師として活躍しておられる3人の方に、座談会形式でお話を伺いました。

・講師または実技指導者として携わっておられる分野と、そのきっかけや経緯について教えてください。

中川真理子さん(養成講座部チーフ)

中川さん(以下、敬称略):養成講座の実技指導者の教育係として携わっています。きっかけは、三重で養成講座が開講される時に、私をいろいろと引っ張ってくださる太田克子さんから声をかけていただき、受付として養成講座にかかわるようになったことです。鈴鹿にある会場は車がないと不便な立地なのですが、ちょうど運転免許を取ったタイミングだったこともあります。ずっと受付でいいと思っていたのですが、ある時太田さんから実技指導者育成の1年コースに参加してみないかと、これまた声をかけていただき、40万円払って参加しました。その後いろいろ経て今に至ります。

笠井:養成講座の実技指導者でリーダーということでかかわっています。初代の三重事務所所長だった井口さんに声をかけていただいて、中川さんと同じように養成講座の受付をお手伝いするところからスタートしました。その後実技指導者育成の研修にも参加していくうちに実技指導者に認定していただいて、現在に至ります。まさか実技指導者になるとは思ってもみなかったです。

平岩:養成講座の実技指導と会員研修の傾聴トレーニング指導を担当しています。産業カウンセラー協会は養成講座が一番力を入れているところで充実しているから、実技指導者になる・ならないにかかわらず勉強しておくとカウンセリングの力が付くという評判を聞き、毎年コツコツやる実技指導者育成の研修を受けました。40万円の1年コース(現在の実技指導者育成体系は、当時とは異なっています)ができる前から受講していたので、下積みが長い、長年やってきたなあという感じです。カウンセラーとして成長するのに役立ったなあと思います。

・受講者にかかわる時に心がけていることはありますか。

中川:その時その時でいろんな方がおられて、実技指導者というからには指導を受けることを期待する人もいると思うのですが、実は指導がすごく苦手で。できないところよりもできるところに目が向いてしまいます。その人の持ち味を伸ばせるように心がけています。

笠井:毎回研修が終わった時に、来てよかった、また来ようと思って帰ってもらうということを心がけています。ただ養成講座の期間は長いので、道中では他の人と比べて落ち込んでしまう人もいて、次回来るかな? などと心配することもあります。そこは結果として講座が終わった時によかったなと思ってもらえたらいいかなと。養成講座はチームでやっているという信頼感があるので、自分の至らないところは他の実技指導者がフォローしてくれると信じてやっています。

平岩:多分勉強に来る人は「こういう時にはどう応答すればよいのか」といったスキルを身につけたいのだろうと思います。もちろんスキルは教えますが、それ以上に私が大事にしているのはカウンセラーの姿勢です。カウンセラーである前に、対等な人間としてクライアントに一生懸命かかわろうとする姿勢が大切だとしつこく伝えています。その人の人生や時には命にかかわる場面もある中「よい応答をする」ことにこだわるより、泥臭くてもつたなくても、一生懸命かかわってくれたと伝わることの方が大事だと思っています。

・やりがいや、反対に苦労しているのはどんなことでしょうか。

中川:6ヶ月なり10ヶ月の間に受講者の考え方が変化していったり価値観がふくらんでいったりといった変化が見られるのがうれしいです。反対に苦労しているのは、こちらからメッセージを送ってもまだそれが届く状態になっておられなかったり、いろいろ考えてアプローチしてもなかなか届かなかったりする時ですね。

笠井:やりがいとしては、講座が進んでいく中で、受講者の変化や成長が見られることがうれしいなと思います。苦労としては、人の成長は人それぞれなのに、養成講座修了時にここまで身につけてほしいという目標に自分がとらわれてしまうと、温かく見守れないことがあります。焦りが出るとうまくいかないということがあるかもしれません。

平岩:養成講座で資格取得したことで終わらずに、継続して勉強しようという気持ちになってもらえると、やりがいというかうれしくなります。カウンセリングの面白み、奥の深さを感じてもらえたらよいですね。苦労としては、伝わらないということは、その人に分かってもらえる伝え方ができていないということになるわけで、伝え方にはほぼ苦労しています。

・受講者へのメッセージをお聞かせください。

中川:養成講座の中だけでなく、日常生活の中で傾聴の学びは生かせると思うので、自分に自信を持って、職場や家庭で傾聴スキルを生かしていただけたらと思います。それと、長く学び続けていってほしいです。私自身もいろんな人のおかげで長く続けられていますし、続けることで見えてきたこともあるので、末永く学んでいただけたらと思います。

笠井正則さん(会員研修部チーフ)

笠井:養成講座は一つの区切りですが、その後も学んでいってほしいと思います。人それぞれペースがありお休みすることはあっても、学ぶ意欲を持ち何らかの形で学んでいくことが必要だと思います。あと、何を学んでいいか分からないとか、次どうしたらいいのか悩んだ時に、すぐ聞ける人が周りにどれだけいるかも大切です。一緒に学んだ仲間やほかの会員がどんなことをしているのか、会員活動に顔を出すなどして情報収集する中で、自分の進む道も見えてくると思います。

平岩:皆さんと同じで長く続けてほしいですし、30万円も払って大変な思いをして資格を取っても、養成講座だけで終わってしまうのはもったいないです。まだまだ可能性があるのだから、長く続けてスキルを磨いていってほしいと思っています。カウンセリングの勉強って、養成講座は第一歩であって、その後に深みや広がりがあって、専門的に学びたい分野が出てきたりする面白みがあると実感しています。変な言い方かもしれませんが、100点はない、吸い込まれるような面白みを味わってもらえたらなと思っています。

・カウンセリングや傾聴、心理学に興味を持ったきっかけは何でしたか。

中川:今でいう特別支援学校の学部に行きたかったのですが希望大学に落ち、教員の免許が取れるということで受けた大学の学部が心理学でした。対人援助職の学部を選ぶに当たっては思春期だったこともあり、どうやって生きていったらよいか自分のことをきちんと知りたいというのがベースにあると思います。不本意で行った大学でしたが、いい教授や環境に恵まれました。今となっては産業カウンセラーの資格試験で学科免除にもなったのでよかったと思っています。

笠井:大学の教育学部を卒業して学校に勤め出した頃、学校に民間のカウンセリングスクールの案内が来ていて、面白そうだなと受講したところ、たまたま職場の人もいて一緒に通うようになり、カウンセリングに特化したことを学んでいました。そのとき一つ上のクラスにいた井口さんから、産業カウンセラーの資格というのがあって大学の心理学部や関連した学部(教育学部など)を卒業していたら学科免除になると聞いて試験を受けました。そのうち養成講座ができるタイミングで声をかけていただくわけですが、心理学の勉強は飽きることがなく面白いです。協会以外でも勉強を続けていますが、自分を知ることや人とのかかわり、特に人の成長、発達の視点を持つことは、仕事の面でも役に立っています。

平岩:養成講座受講は相談業務に就いたことがきっかけです。中川さんが受付で笠井さんがサブリーダーの時、平成16年に養成講座を受講しました。それ以前にカウンセリングに興味を持ったのは、企業で管理職をやっていた頃です。部下の育成で悩んでいた時に女性の能力開発を勉強したのですが、その中でやったカウンセリングのさわりみたいなことを職場で試してみたら、部下の顔が変わるという経験をしました。部下がいろいろ話してくれるようになったり、クレームの電話対応で苦情をいう人がおとなしくなり最後は励ましてくれるように変わったりしました。まさに目からうろこで、ちょっと話を聞くだけでこんなにも変わるんだ、すごい効果だ、恐るべしカウンセリングと実感しました。

・カウンセリングを学んでどんな変化がありましたか。

平岩真理さん(相談事業部チーフ)

中川:カウンセリングだけでなく子育ての経験や人間関係の変化もあると思いますが、「自分が」という我を通すのがなくなり、まず周りの人の話を聞くことができるようになったと思います。

笠井:周りの人はそう見ませんが、実は割とせっかちなんです。元々の性格のままだったらしんどかったと思いますが、まあいいかとか、ちょっと置いておこうなどの見方ができるようになり、楽になったと思います。家でまあいいかばかり言ってると、妻には怒られるのですが(笑い)。

平岩:自分の考えが正しいとか、人にいいことをしているとか、自分の価値観がすごくありましたが、カウンセリングを勉強した後は、自分が正しいとは限らないと知りました。それまで自分は真ん中にいると思っていましたが、どちらかというと端っこの方にいるとわかり、自分の特異性を実感しています。以前の部下には、ひどい上司だったことを謝りました(笑い)。

・今後の三重事務所に期待することはどんなことですか。

中川:若手に参入してほしいです。長く積み重ねてきた部分としてそれはそれでよいのですが、動きがないのでもっといろんな人が事務所に来てああだこうだ言えるようになっていけるとよいと思います。

笠井:自分としても、いつまでもやれるわけではないですし、次にバトンを渡す人を考えた時、誰かが抜けても引き継いでやれる体制を整えることは大事だと思います。

平岩:後継者育成や世代交代も必要ですし、年長者を大事にしつつも新しい風が入ることが活性化につながると思います。運営もカウンセリングも1年2年ではできないので、積み上げていく人がどんどん増えてほしいです。養成講座が終わった後に会員にならないのはもったいないですし、とても残念に思います。何か縁のあった人がつながっていけるような広がりのある事務所になっていったらいいなと思います。

・最後に一言お願いします。

中川:会員組織なので、誰かがやってくれるではなく、自分の事としてかかわってほしいと思っています。そのようなPRができるといいなと。学びを続けていくことが三重事務所の発展にもつながるので、ぜひ会員になりましょう。

笠井:何らかの形で事務所なり三重地区とかかわってほしいです。会員研修部チーフとしては、会員研修にどんどん来てほしいです。そのためにも魅力的な研修を企画したいと思います。

平岩:たくさんの人がかかわって、その人の生活に潤いをもたらすなどして楽しいなと思ってもらえたらいいなと思います。どんなふうでもよいのでかかわり続けてほしいです。

・座談会を終えて

座談会を始める前にまず指摘を受けたのは、「受講生ではなく受講者」ということです。何の気なしに「受講生」という言葉を使ってしまいましたが、実技指導者と受講者は先生と生徒という関係ではなく対等である、という基本に立ち返りハッとしました。

そして、皆さん最初から実技指導者を目指したわけでなく、きっかけや縁を生かして積み重ねてこられたことが今につながっているのだと知りました。お三方それぞれの熱い思いを伺い、自分のペースで学んでいけばいいのだと気づき、また広報部員としてもできるだけ長くかかわり三重の魅力を発信していきたいと決意を新たにしています。